第6話 5月12日放送

「へのへのもへじ」

 僕は中学2年になっても、過去にみんなから無視された思い出を 引きずったままでいました。 当時、学校には戦争で右腕を失ってしまった数学の先生がいらっしゃいました。 身体のハンディを克服して、誰にでも優しく穏やかで、面白い話もしてくれる先生は、 トラウマのある僕にとっては、とても大きな存在でした。 ある日学校から帰る途中、バス亭に立っている先生を見つけました。 その距離約50メートル。「あれあれ?なんだ?」 その時、何故か先生の顔が“へのへのもへじ“って描いてあるように見えました。 何度見ても、やっぱり“へのへのもへじ“に見えるんです。 翌日の数学の時間、授業そっちのけで、昨日見えたままの先生の顔をノートに描いたら、 これがまたソックリに出来上がったんです。 面白くなって、こっそり隣の女の子に見せたら、手で口を抑えて笑いました。 結局僕のノートはクラス中に渡り、初めて描いた似顔絵はみんなの笑いを誘いました。 コツをつかんだもんだから、今度は仲間たちをどんどん描いては笑わせました。 人の顔色を見ていた切ない体験が役に立ったのです。 これを境に、僕のトラウマは消えていきました。 あの日、なんで先生の顔が“へのへのもへじ”に見えたんだろう? 僕にとって意味のある出来事だったのか、それとも神様のイタズラだったのか。 不思議です。

続きは、また来週です。